タイ王国の非常事態宣言と大量検挙 (その4) 一応は解除されたものの

タイ王国非常事態宣言と大量検挙(抄)
ウボン中央刑務所の「赤シャツ?」たち     ウボン日記~その7
            ウボンラ-チャターニー大学教養学部                      東洋言語文学科講師 高橋 勝幸
(その
「男性」面談記録のつづき…
 
 
男性(22) (723)
60.。ワーリン郡在住。農民。チャックトンロップ会員。78日から収容。非常事態宣言違反、騒乱、10人以上の集会参加、民主党事務所前でタイヤを燃やしたという4つの容疑。証拠写真は車。519日、民主党事務所に集会が終わってから行った。それから、県庁に行った。年寄りだから外にいた。銃声が聞こえて、県庁が燃えた。2時ごろ帰った。バンコクの集会には312日に1回行った。公正と民主主義を愛す。自分の国を正しくしたい。理想を求めて赤シャツに参加した。政府との対立、社会の対立に疑問を抱いている。
 
男性(23) (723)
48歳。シームアンマイ郡在住。農民チャックトンロップ会員(1年)。集会参加、騒乱、タイヤを燃やしたという容疑。空軍基地にいるところを写真に撮られた。51614時ごろ偶然通りがかったにすぎない。519日は農作業をしていた。裁判は17人とともに79日に1回。次は82日。裁判官が容疑を読んだ。1時間要した。バンコクには王宮前広場に3日間、ラーチャプラソン2日滞在した。県庁前の夜の集会にも参加したことがある。公正、正義を好む。赤シャツの理想が好き。生活苦、旱魃など個人の問題で赤シャツに参加した。タクシンの政策は農民を助けた。例えば30バーツ医療政策、麻薬取締り。
 
男性(24) (723)
66。市内在住。農民。日雇い。チャックトンロップ会員(1年)。中学6年卒。78日から収容。自首した。容疑は10人以上の集会参加、県庁焼き討ち、騒乱。証拠は車の写真。516、母が酸素ボンベで呼吸しているので補給に来た。空軍基地で偶然タイヤを燃やしているのを見て、寄っただけ519日は郊外にいた。公正、真っ直ぐなことが好き。
 
男性(25) (723)
50歳。ミュージシャン(人生のための歌 社会的なメッセージを込めた曲。)。524日から収容されている。容疑は集会参加、公務執行妨害武器不法所持、公共物破損。519日、県庁に見に行っただけ。県庁舎前の草むらにいた。1時ごろ、実弾を足に受け、市内のサパシット病院に運ばれた。県庁が燃える前だ。誰が撃ったかわからない。2回裁判に出た。次は82日。チャックトンロップ会員ではない。社会公正が好き。民主党が選挙をボイコットしたことに怒った。県庁前、バンコクの集会に参加していない。公正を要求し、銃で撃たれ、重い罪を着せられている。こんな馬鹿なことがあるか。

男性(26) (723)
55歳。ワーリン郡在住。地元紙編集長(休刊。創刊10年。東北タイ南部をカバー)。521日から収容。運動の指導、騒乱の容疑。自分は赤シャツでない集会にも参加していないバンコクの集会にも行かなかった。51411時、自由民主橋を通りがかり、記者として集会を取材した。自分は知らないのだが、自分を知っているという人に何か話すようにと誘われ、「疲れていないか。これらの行為は法律違反ではない。意見表明は正しい。法律の下に整然と平和的にデモをやるように」と話した。10分ぐらいいて帰宅した。まだ非常事態宣言は布かれていない。その時の写真が証拠写真となった。タイヤも焼いていない。3回目の裁判は82日。2回保釈を要求したが、受け入れられない。621日、弁護士と話し、当局を訴えた。1012日、19日に裁判が行われる。赤シャツは正義と民主主義を要求している。
 
男性(27) (723)
28歳。ワーリン郡在住。ビデオ編集、コンビニ経営。マハーサーラカーム大学人文学部タイ語メディア学科卒。ニューメディアの修士課程中退。78日から収容されている。容疑は10人以上の集会参加、武器不法所持、役所への侵入、公共物破損。証拠ない。店をウボン大学3門のそばに構えている。519日、大学は夏休み。客が少ないので、仕入れに出かけ、ついでに県庁前のトゥンシームアンにお参りに行った。そうしたら赤シャツの集会があった。自分は県庁前の大通りで元記者ということもあって、集会を観察し撮影した。軍と赤シャツの衝突から20メートル離れた所にいた。衝突は県庁の正面向かって右手の門の脇であった。兵士が赤シャツを棍棒で叩いていた。自分のいる外側の通りでタイヤが燃えていた。13時ごろ、23発の銃声を聞いた後、足に銃弾を受けた。約200メートル離れた庁舎の2階から撃たれた。市内のサパシット病院に搬送された。12日間入院した。トーイら赤シャツの見舞いを受けた。529日に30分警察の尋問を受けた。なぜ銃撃されたのかを聞かれた。「集会を見に行って、撮影していた」と答えた。529日から77日まで保釈が許され、帰宅した。82日に裁判。自分は赤シャツではない。刑務所で赤シャツと知り合いになった。この社会に公正はないと思った。
 
男性(28) (723)
34歳。トゥラガーンプーンポン郡在住。三輪タクシー運転手。赤シャツでない610日に逮捕され、拘置所を経て、612日に収容された。容疑は役所侵入、公共物破損、県庁焼き討ち、公務執行妨害、集会参加。県庁で立っている所を写真に撮られた。519日、雇われて、県庁隣のシーウボン学校に生徒を2人迎えに行った。しかし、道路が封鎖されていて迎えにいけなかった。仕事は放棄せざるをえず、母親が迎えに行った。三輪自動車を停めて、歩いて県庁に見に行った。火事はまだ起こっていなかった。タイヤが燃えていた。庁舎には兵と警官でいっぱいであった。銃声が聞こえた。保釈ない。裁判まだ。1年7ヶ月の子どもがいる。妻と田舎で暮らしている。
 
男性(29) (723)
59歳。ワーリン郡在住。果物小売。チャックトンロップ会員。78日から収容。519友人に貸した車をスタットの家と民主党事務所のそばで証拠として写真に撮られた。その日、自分は自宅で子どもと孫の世話をしていた。夜、県庁前の集会に参加したことがある。公正を愛し、正義と民主主義を求めた。バンコクの集会に行っていない。家と車の借金がある。月に2万バーツ返済。アピシットの時代に借金が増えた。タクシンの時代に銀行の融資を受けて、家を建てた。今、モノが売れない。物価が上がった。失業者が増えた。
 
男性(30)(728)
58歳。ワーリン郡在住。商売。チャックトンロップ会員。中学6年卒。容疑は10人以上の集会参加、516日の空軍基地前集会参加、519日県庁での集会参加、県庁焼き討ち。実際は、516空軍の集会を見に行ったが、車の中にいた。519日は集会が終わってから、県庁を見に行った。見たかった。バンコクの集会にも王宮前広場、ラーチャプラソンなど23日、23回行った。民主主義と公正を求めて赤シャツに参加した。
 
男性(31)(728)
  53歳。市内在住。日雇い。小4卒。525日から収容。県庁焼き討ちの容疑。実際は、519日、10分間、県庁の向かいにあるトゥンシームアン公園にいた家族が心配だ。学校に通う3人の子がいる。妻は背中を痛め、仕事ができない。近所の人が援助してくれている。家も傷んでいる。
 
男性(32)ピチェート・ターブッダ(728)
  55歳。市内在住。専従運動家。チャックトンロップ代表。520日正午、多数の警察・軍人が自宅を取り囲み、自分を逮捕した。運動の関連書類、パソコンが没収された。他の容疑者より、大衆動員、テロリストの容疑が加わっている。425日のサンティ・アソークに対する抗議運動、51419日の集会の罪を問われている。没収されたコンピュータの中には、チャックトンロップの会員のデータがすべて入っていた。7千人近い個人データである。写真、氏名、住所、電話番号が記載されている。逮捕された人の中にチャックトンロップの会員が多いのはそのためであろう。次男は安全のためバンコクの中学校に転校せざるをえなくなった。自分の家は民衆の溜まり場であったが、逮捕を恐れて誰も近づかなくなった。自分は死刑にされる可能性がある。関係のない人はすぐにでも釈放してほしい。自分は最後の一人になって、他の被勾留者を励まし続けたい。飛行場を閉鎖した黄シャツが保釈され、我々が保釈されないのは理解に苦しむ。チャックトンロップはローカルな運動組織である。タクシン支持でも赤シャツ支持でもない。統一戦線として、反独裁民主戦線(ノーポーチョー)に参加した。プアタイ党はチャックトンロップを頼りにするが、チャックトンロップはプアタイ党に依存しない。同党議員を誠実でないと批判すらしたことがある。主にコミュニティ・ラジオを媒体に活動していた。自ら活動資金を工面し、仏教の活動を重視し、衣服や自転車などの寄付活動をした。会員が病気になれば見舞い、会員あるいはその家族に不幸があれば駆けつけた。かつて個人的に国会議員の子の面倒を見たことから、選挙運動家と噂されていることも知っているが、それは違う。自分は借家に住み、おんぼろの自転車に乗っている。2年前にDSI法務省特別捜査局)の資産調査を受けたとき、500バーツしかなかった。ニュースは家族や弁護士との面談で入手している。今、タイには民主主義も公正もない。政府は独裁で、国民の代表でないことが懸念される。善良な人々がテロリスト呼ばわりされている。兄弟である日本人にも知ってほしい。
 
男性(33):(729日) 
28歳。ワーリン郡在住。商売。中学6年卒。赤シャツではない78日から収容。容疑は10人以上の集会参加、公務執行妨害、タイヤを焼く、公共物破損など6項目。519日、用事があって県庁付近に行ったが、集会があったので野次馬として県庁の柵の外にいた。足を撃たれ5日間入院した。1ヶ月保釈された。82日が初公判。
 
男性(34):(729日) 
21歳。ケーマラート郡在住。日雇い。中学6年卒。赤シャツではない78日から収容。容疑は10人以上の集会参加、公務執行妨害、タイヤを焼く、公共物破損など6項目。519日、仕事が無かったので、街に遊びに行った。集会があったので野次馬として見ていた。県庁前の広場にいたところを、腹と腕に4箇所銃弾を受け、重傷を負った。10日間入院し、保釈の身で帰宅した。82日が初公判。
 
(つづく)