獄中からの手紙


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獄中からの手紙:
ウボンラーチャターニー中央刑務所の赤シャツ
高橋 勝幸
ウボンの刑務所に収容されている主婦(42歳)から手紙を預かった。拙ない訳だが紹介したい。
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他人に罪を着せること 山を見るが如く明らかなり
己に罪を着せること 一本の髪の毛を見る如し
 
他人の臭いは 我慢ならない
自分の臭いは 気にならない
                (名僧)
 
この詩はタイの今の状況を言い表している。国家は武器を用いて多数の国民を殺傷した。しかし、国民を傷つけた人々は投獄されない。
然るに、国民を殺傷させないために、国民に武力を行使する国家に反対するために集会に参加した純朴な人民は、却って起訴され、刑務所で身柄を拘束されている。これが民主主義制度であろうか。
国王を元首とする民主主義制度によれば、国民は国家行政に賛成であろうと反対であろうと政治的意見を表明する権利がある。これこそが民主主義制度ではなかろうか。    
しかし今国民はこのように人権を侵害されている。私たちはどうしたらいいのだろうか。私たちタイ人はこのような状況にあとどれくらい耐えればよいのだろうか。

とにかく、私の思いを獄中から伝えたい。この体験を通じてわかったことは、個人の尊厳は憲法によって保証されているはずなのに 国家権力によって侵されている ということだ。私たちは憲法を堅持していると言えるのだろうか。私たちが民主主義制度の中に生きているならば、このように虐待されるはずがない。

私は今回の経験を高くついた教訓としたい。政治改革のために役立てたい。そして、民主主義を発展させる糧としたい。次なる集会の規範としたい。
憲法にとって、国家権力から人権を守ることが最も重要な点である。
少しでもタイ人のためになればと思い、最後に詩を託したい。
 
いかなる国家も団結が無ければ
何をしようと益もない
国家が衰亡して  
個人に幸福があろうか
                 (ラーマ6世の詩)
 
団結なき国家に、発展はない。                      
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この手紙を僕に託したのはウボンの社会運動グループ「チャックトンロップ(戦旗掲揚)」の会員である。このグループも赤シャツの統一戦線運動に参加した。彼女は自宅で逮捕され、524日から収容されている。容疑は非常事態宣言違反、騒乱、県庁焼き討ちである。519日午前10時ごろ、民主党(政府与党)事務所前で「政府の統治はよくない。我々は政府のバンコクでの暴力行使に反対するために来た。公共財は破壊しない」と演説した。それから県庁前の通りに行ったが、中には入っていない。庁内の車を燃やしたと疑われているが、外にいた。銃撃で倒れる人を見て、怖くなって逃げ、火災が起こる前に帰宅した。彼女はイギリスとタイの2つのパスポートを持つ。夫はイギリス人で、ロンドンに12年住んだことがある。裁判を傍聴した夫もタイの司法に呆れているという。13歳の男の子が一人いる。

地方裁判所で、1215日の午後の審理が始まる前に、彼女は憲法は人権を保障していないのか。こんな国が他にあるか。出獄したら、自分の体験、人権状況を大学で講演したい」と僕に熱く語っていた。

午後の休憩の時も、廊下で彼女は僕に話しかけてきた。「政府は正しくない。ガバナンスが良くない。国民を虐げている。国民は権利と自由を有する。偏見を排し、民主主義、公正、平等が保障されれば、家庭、社会、国家に幸福がもたらされる。重要なのは憲法と法律だ。良い憲法であれば、国民の生活は安定する。国民が憲法の意味と内容を知らないことが問題だ。赤シャツ、黄シャツの対立は馬鹿げている。タイは悪い方向に向かっている。問題の出口を見つけるために団結し、知恵を絞らなければならない。私は民主主義を求め、却って投獄された。不幸である。法律が人を殺すのではなく、人を守るために行使されるように力になりたい。」…と。

原告証人の警察官も廊下で休んでいた。彼女が真実の証言を彼に求めたので、僕も、「助けてやってくれよ。刑務所暮らしは大変だぜ。食事はまずいし、自由はない。少しは良心があるんだろ」と声をかけた。警察官の耳には入ったはずだが、返答はなかった。